何度目かわからない戦争が、世界を削っていた。
国が国を喰らい、人が人を踏みにじる。そんな時代の中で、少女は一人で生きていた。母を失い、兄を失い、残ったのは自分の足と、戦場に転がる金品を見つける目だけだった。信じるものは何もない。立ち止まる理由も何もない。ただ今日を生き延びることだけが、少女の世界のすべてだった。
泥濘んだ道の脇に、青い魔獣が倒れていた。
小さく、痩せ細り、雨に打たれたまま動かない。少女の足は止まらなかった。止まる理由がなかった。通り過ぎようとした、その時だった。
足が、言うことを聞かなかった。
なぜだかわからない。これまで幾度となく死にかけた人間を、少女は素通りしてきた。魔獣ならなおさらだ。それなのに、この青い魔獣だけが、少女の足を縫い止めた。
少女はしゃがみ込み、魔獣の顔を覗き込んだ。
その瞬間だった。
記憶も理性も持たないはずの青い魔獣の中で、何かが動いた。言葉にならない、形にならない、それでも確かに存在する何かが、少女の顔を見た瞬間に揺れた。
まだ、思い出せない。それでも青い魔獣は、少女が差し伸べた手を、拒まなかった。
それは、兄だった。
空想クラフト工房 迷宮の兵士より

